2015年9月13日日曜日

「ステークホルダー」ってなに?

最近、本業の方で、システム開発の会議に参加したのですが、その中で、「ステークホルダー」という単語が頻出しました。
ただ、どうもこの単語、人によって少しずつ捉え方が違うようで、なんとなくかみ合わない会議になってしまいました。
Bitcoinの話とは逸れてしまいますが、「ステークホルダー」について少し考えてみたいと思います。

Wikipediaによると、(Wikipedia : ステークホルダー)
ステークホルダー(英: stakeholder)とは、企業・行政・NPO等の利害と行動に直接・間接的な利害関係を有する者を指す。日本語では利害関係者という。具体的には、消費者(顧客)、従業員、株主、債権者、仕入先、得意先、地域社会、行政機関など。
利害関係者? そんな簡単な単語でいい切れるのなら、わざわざ言い換える必要ないですよね。また、日本語で「利害関係者」っていうと、直接の発注元と、その先のユーザーぐらいまででしょう。
よく読むと「直接・間接的な利害関係」といっています。元々の利害関係者のスコープを広げているんですね。ただ、「間接的な利害関係」までを考え出すとキリがありません。
案の定、挙がっている具体例を見ると、消費者から従業員、株主……行政機関まで放り込まれています。目の前のシステムの話をしているにせよ、一企業の経営の話をしているにせよ、消費者から行政機関までの話をし始めたら、全人類のことを考えろといっているのと同じになってしまいます。

なんかぼんやりしたままだなぁと思いながら、もう少し読み進むと、元々は
ある組織にとってのステークホルダーを「そのグループからの支援がなければ、当該組織が存続し得ないようなグループ」と定義していた
と、あります。
ある組織(A)を支援しているグループが複数あって(B,C,D)、そのグループの中で、あってもなくてもいい程度の支援をしているグループ(C)を除いたグループ(B,D)が、組織(A)にとってのステークホルダーというわけですね。

わかりやすいですが、この説明のステークホルダーに消費者とか従業員が入ってくるシチュエーションってなんか考えにくくないですか?
「消費者が支援している」とは……まぁ、お金を払って商品を買ってくれるのだから、それを「支援」と考えられなくもないですが、それだと「お客様は神様です」っていっているのと同じで、思考停止ワードですよね。
それに、少なくとも従業員はある組織(A)の構成要素でしょう。従業員が会社を支援しているなんて考えだしたら、労働力の無償提供こそが最大の支援ですからサービス残業どころの話じゃなくなってしまいます。

う~む、しっくりきませんね。
できれば、会議の中で「この人はステークホルダーなの?」ときかれたら、その会議の出席者は「はい」か「いいえ」で答えられるぐらいに定義をはっきりさせてみたい。「まぁ、『はい』ともいえるけど、必ずしもそういうわけではなく、『いいえ』と言わざるを得ない場面もあるんじゃないの?」みたいな言葉を会議で使うと収集がつかなくなりますからね。

もう少し踏み込んで調べてみました。(……といってもGoogle先生頼みですが)

まず "stakeholder" という英単語の成り立ちを考えてみます。
これは、"stake" と、"holder" という2つの単語で構成されていると思って問題ないでしょう。
そもそも "stake" って、いったい何でしょう?

weblioによると、(welbio : stake) 「くい、棒」という意味と、「賭け」、「賭け金」という意味が出てきます。

それを踏まえたうえで、"stakeholder" を検索すると、こんな解説がされていました(最近話題のステークホルダー 英語でどういう意味?)

最初のページで、株主(= "stockholder")という単語に触れられています。株主以外にも枠を広げた言葉として、ストックホルダーをもじって、ステークホルダーと名付けたのだなという予想は付きます。

ただ次のページに、「当初の意味は、賭け金を保管する人、というものでした」と書かれています。いろいろ意味が転じたようですが、「投資=賭け」と考えると、その掛け金を保管するのは企業ではないでしょうか? 賭けの当事者である株主がステークホルダーと呼ばれるのはかなりの違和感があります。
ちょっと語呂合わせがうまいだけでこんなに違和感のある言葉が使われるようになるとは思えません。もっと英語圏の人たちがしっくりきているイメージがあるはずです。
それがわからないと、あえてストックホルダーではなく、ステークホルダーと呼んだときにどこまで枠を広げたらいいのか、境界線がわかりません。

仕方がないので、更にGoogle検索を続けます。
すると、こんな解説を見つけました(山内翼のサイト | yamauchi283.com : ステーク・ホルダー(Stakeholder))

ここには明確にステークホルダーの語源として以下のような説明が書かれています。
語源は、16世紀アメリカの開拓時代に、移住民が土地の周囲に杭(stakes)を打ち、土地の所有権を主張していたことが始まりです。70年代までのアメリカでは「権利を主張する者」として否定的な意味で用いられていました。
なるほど、なんとなくしっくりきました。

ビジネスシーンで使われる言葉なので、お金にまつわる部分に注目し「賭け金」という意味から語源を探ろうとしてしまいがちですが、実は「くい、棒」のほうに意味があったわけです。
杭を打ち、自分の権利を主張する人たちをステークホルダーというんですね。

だから、株を持っていなくても、その会社に対して何らかの権利を主張してくる人たちをステークホルダーと呼ぶわけです。
そう考えれば、お金を払って商品を買ったからには、正当な対価として商品の効用を求め、それが満たされなかった場合、会社に対して苦情を言ってくる消費者や、働いた分の給料を要求してくる従業員はステークホルダーですね。
逆に、株主でも、いちいち権利を主張してこない人がいた場合、その人だけを見ればステークホルダーではないんですね。

これで線引きができました。

この言葉がビジネス用語として定着しやすかったのも、先に「株主=ストックホルダー」という言葉があったからというのは間違いないでしょう。

他人事みたいなビジネス本によく書いてある「会社は誰のためにある?」という問いに「株主(ストックホルダー)」と答えた経営者に対して、「その考え方は古いですね。これからはストックホルダーだけでなく、ステークホルダー全てのことを考えた経営をしなくちゃいけません」と、いう、半分ダジャレじみたコンサル用語として広がったというのは、容易に想像がつきます。
さらに、有象無象の三流コンサルたちがクライアントを煙に巻くために、どんどん意味を曖昧にしていったというのもわかります。

ただ、会議で使うからには、「とにかく利害関係者ぜ~んぶ」みたいな曖昧な捉え方ではなく、「権利を主張する人たち」という視点で、その関係者が権利を主張するかしないかを意識しながら線引きをしていくべきでしょう。